奥銀谷地域自治協議会
かながせ文庫
 【最終更新日:2010/9/12】


浄願寺三門 − 蟇股と木鼻に施された彫刻が見事な鐘楼門 −


浄願寺三門

看流山浄願寺は、朝来市生野町奥銀谷の北端、国道429号沿いにある。
真宗西本願寺派で、西本願寺に連なったのは13代以後のこととされており、「寺院明細帳」には『天正元年(1573)十月證專(しょうせん)開基』と記されているが、永禄の頃(1558−1570年)に正珍が艸庵(そうあん)を結んだのが始まりといわれる。その後天正元年(1573年)に證專上人が浄元寺と称し、更に浄願寺と改称したがその年代は不明とされている。



浄願寺三門
南東から見た三門
三門とは寺院の正面に配置される門のことで、三解脱門
(さんげだつもん)とも呼ばれる。山門は、三門の異称。

浄願寺の三門(さんもん)は嘉永2年(1849)春に完成したもので、上層に梵鐘が吊られた楼門である。蟇股(かえるまた/蛙股)と木鼻に装飾がほどこされ、山号の扁額が掲げられている。
山号「看流山」の扁額は当時の代官勝田次郎(任期は弘化3年(1846)−嘉永2年(1849))の筆で、浄願寺の住持に依頼された小川含章の懇請により書き与えたものである。小川含章により記された銘が額裏にある。

  嘉永二年己酉之春 浄願寺楼門新成
  主僧大軾老師欲請 勝田明府書扁其樓門
  明府爲書看流山三大字以與之
  乃令工人鐫之
  既成索余其記 因展観遂題其裏面云
    嘉永己酉夏五月
      麗澤館含章小川式

嘉永2年己酉(つちのととり)の春、浄願寺の楼門新に成る、主僧大軾(だいしょく)老師その楼門の扁に勝田明府の書を欲し請う、明府為に看流山の三大字を書して之を與(あたう)、乃(すなわち)之を工人に鐫(ほら)令(せし)む、既に成り、余(予)に其の記(しるし)を索(もとむ)、因て展観し遂に其の裏面に題す
  嘉永己酉夏五月  麗澤館含章小川式(のり)
  ✽明府=代官(縣令)をほめていう言葉。明公に同じ。


浄願寺三門

龍の彫刻で装飾された蟇股と「看流山」の扁額。頭貫(かしらぬき)は虹梁(こうりょう)様式に造られている。


龍の背面
蟇股に彫られた龍の背面。
鬼の蟇股
鬼の蟇股-背
裏側の蟇股。彫られているのは邪鬼であろう
か。背後から見ると両肩で梁を支えている。
木鼻1
木鼻2
木鼻に施された刳形(くりがた)彫刻。4本の
柱それぞれの獅子と獏は表情が少しずつ異
なる。残念なことに、風化摩滅による傷み
の激しいものもある。

小川含章は、南豊儒学を基本に勉学に精励して名を為した儒学者の一人である。大坂在住篠崎小竹の門人にして小川弘藏(朝来志に"字は民徳"とある。)といい、含章と号す。含章は、弘化3年(1864)に赴任した生野代官勝田次郎に学問所の司教として招聘され、その学識を傾倒し薫陶に貢献した。「生野銀山孝義伝」を著している。南豊儒学とは、豊前豊後両国の中の大分地方である南豊で江戸時代に振興した学問。

麗澤館は、天保14年(1843)生野代官大草太郎左衛門政修(任期:天保6年(1835)8月−弘化3年(1846)2月)によって代官所内に創設された学問所、尊性堂を勝田次郎が改称したもの。勝田次郎は桜井東門の後任として含章を招き、一層郷学の進展に勤めている。
尊性堂は、もともと天保11年(1840)暮から12年初めのころに出石藩の儒者桜井良蔵(号東門、出石藩の儒学者)が生野で開いた私塾を、大草代官が官学に移して命名し、子弟の勉学に備えたもの。桜井東門は引き続き教師に招かれているが、東門が開いた私塾こそが、生野に於ける組織立った郷学の濫觴(らんしょう)といえる。大草代官は尊性堂創設にあたり、米三十石を給付して手当としている。

小川含章は授講を懇請されて、麗澤館の外に浄願寺を教場として教えていた。麗澤館は代官所役人の子弟のためのもので、青谿書院のように広く門戸を開放したものでなかったため、学問を望む富裕層が働き掛けたのである。この講座が含章によって"南豊講"と命名されたと推考される(千葉県柏市、道徳科学研究所広池学園、瀬戸衛氏)
楼門扁額裏面、小川含章墨書銘の左に"南豊講之内"と肩書して10名の姓名が列記されている。これは明治5年(1872)8月に学制頒布となり、翌6年に生野小学校が開設されたその機会に、含章に学んだ人たちが昔を偲んで小川含章の銘に列べて夫々姓名を留めたものである。含章の南方講は小学校の開設によりその役目を終えた。


余談であるが、後に青谿書院を開き多くの門人を育てた池田草庵が、八鹿村で閉鎖中の心学講舎立誠舎(りっせいしゃ)を借り受け、同じ舎名で塾を開いたのも天保14年の6月である。草庵の青谿書院には生野代官所最後の代官横田新之丞の嫡男新太郎と次男兼三郎が入門している。

(文責 K.kitami)



看流山浄願寺:兵庫県朝来市生野町奥銀谷、浄土真宗

地図-浄願寺


参考文献:校補生野史、山窓巧課





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